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『大人になったら、』畑野智美

帯には「大人の恋愛小説」とあるが、カバー裏には「大人になりきれない私たちの恋愛小説」とある。 恋愛経験の少ない、あるいは恋愛をスマートにできないことをもって「大人になりきれない」と書かれてしまっているのならどうかと思うところもあるが(なぜなら僕がそれなので)、でも「大人になりきれない大人の恋愛小説」としかいいようのない小説だとも思う。

都内のカフェで副店長として働く三十代半ばのメイは、高校生の頃から10年付き合った元彼と別れて以来、これといった恋をすることもなく日々を過ごしてきた。 新入社員で仕事を覚えようとしない杉本君に失礼なことを言われ怒りながら、高校生の頃からの友人との会話でも似たようなことを言われたこともあり、少し恋愛・結婚のことを気にするところもある。 メイの働くカフェ「キートス」には、毎日午前中決まった時間に来店し、決まったメニューを頼む同世代くらいの寡黙で真面目そうな男性がいて……。

メイも羽鳥先生も35歳で、自分よりは6~7上なのだが、なんていうか「普通」というか、数年後の自分の姿というか、いや今の自分と大差ないかなあという感じがする1。 なので杉本君に言われた失礼な言葉に怒る気持ちと、でも親友のみっちゃんに似たことを言われて少しそうかと思う気持ちも少しだけ想像がつく。

「だって、八年間もセックスしてないなんてことは、ありえないでしょ。人として、気持ち悪いですよ」

「……」

「(中略)メイは、とりあえず誰かと付き合った方がいいよ。難しく考えないで、さっきの人とやるだけやれば、リハビリになるじゃん。セックスうまそうだし、そんなに好きじゃなくても、気持ち良くなるくらいのリードはしてもらえるって」

「わたし、リハビリが必要?」

「必要」わたしの目を見て、みっちゃんは言う。

「そうか……」

そんなセックスをしばらくしてないことが大ごとかとも思うけど、メイも自分もそこに引っかかる程度にはやっぱり大ごとなのかもしれない。 リハビリが必要、はなんかをきっかけに自分も最近似たようなことを考えてた記憶があったので、思わず引っかかってしまった。

そこから親友の大ちゃんの結婚や、その結婚式での元カレとの会話や、羽鳥先生とのカフェや近所での出来事を経て、少しずつ少しずつ彼に惹かれていくのだが、お互い気持ちに気付いたからと言ってスマートに出来ない大人らしくなさが、勢いで動けない妙な大人っぽさを出す恋愛小説に仕上がっている。

大きな話の展開はなかなか起きず、ゆっくり話の進む小説なのだが、クライマックスに近づくとちゃんと話が急に進み出す。 そして最後まとまったところで出てくる最後の一文が完璧過ぎて最高だった、そんな素敵な話だった。


  1. 「普通」って何って感じかもしれないが(この小説の中でもそういう話が3回くらい出てくるが)、でもやっぱり自分の思う普通な感じ。 ↩︎

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