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『勝手にふるえてろ』綿矢りさ

いつ買ったのか全く記憶にないくらい前に買ってからずっと読めてなかったこの本を今さらやっと読んだ。 もっと早く読んでおくべきだった。

中学生の時以来ずっと心に秘めてきた「イチ」への片想い以外に恋愛経験のない26歳オタク女子が、会社の暑苦しい同期社員「ニ」にアプローチされ告白されて……という話。 若干同種の拗らせ人間的なところの自分としては息苦しくなる描写も多かった。

拗らせ感が特に伝わってきたシーンとして印象に残ったのは、自分がイチに会うために強引に開いた同窓会のあと、またもや強引に開いた東京に住んでる同期との宅飲み会。 ニとはデートで自分の興味のあるところに行かせてもらえなかったり(あるいは行ってもあからさまに不満な態度を取られたり)、したい話をさせてもらえなかったりと明らかに相性が合わないなと感じていた一方で、この宅飲み会ではイチとはウィキペディアで調べた絶滅した生物の話で盛り上がったり、中学生の頃の思い出の話をしたりと悪くない感じのする描写がある。が、この時に主人公が思うのは、相性は悪くなさそうにもかかわらず、いや相性が悪くないからこそ、イチは絶対に自分のことを好きにならないという確信だった。

そしてその確信を裏付けるのがこの宅飲み会での最後の描写。

「どうして私のこと “きみ” って呼ぶの」
イチは私が大好きな、はずかしそうな笑顔になった。
「ごめん。なんていう名前だったか思い出せなくて」 (綿矢りさ『勝手にふるえてろ』より)

イチやニとの恋愛模様だけでなく、中学生の頃の描写も会社員としての描写も、「イケてる」とは言えない人間の内面を描いた小説として秀逸で繊細な作品だったと思う。

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